河梁の詩
いつかの明日:一
まだ見ぬ”あなた”へ続く道 その始まりは いつも黄昏
いくつもの出会いと別れをくりかえし ”あなた”を問うて 歩き続ける
「だから、”誰そ、彼は”――”黄昏”。どう? なかなか詩的でしょう?」
夕暮れを背に、歌い終えた彼女が笑う。
「その言葉より、キミの歌のほうがよほど詩的だったよ」
「それはそうよ。だって詩(うた)だもの」
当り前のように、彼女が即答する。
「それで、その詩の続きは? 歩き続けた先で、”あなた”に会えたの?」
「それは夜が明けたらわかること」
「朝まで歩き続けるの?」
俺がほんの少し顔をしかめると、彼女は笑った。
「あたりまえよ。たった一人の”あなた”に会うための道のりなのよ。
簡単に辿りついてしまったら、何のロマンもないじゃない」
「そうかな」
「そうよ」
そう言って、彼女はくるりと俺に背を向け、再び歌い出す。
今日は当たり前の事ばかり聞いているな。
ふと思いながら、俺は彼女の影を追うのだった。